二ノ宮裕子 Hiroko Ninomiya Solo
04,October.2015 – 29,October.2015
11:00 ~ 20:00
at Haricot Rouge
トポス高地 アリコ・ルージュ 2015 07
TOPOOS Highland Haricot Rouge 2015
欧風家庭料理店「アリコ・ルージュ」
長野県飯綱町川上 2755 飯綱東高原 飯綱高原ゴルフコース前
phone 026-253-7551
営業時間12時~20時30分
休館・定休日 火曜
http://homepage3.nifty.com/haricot/
toposhr2015-07-hirokoninomiya >> (PDF) / 101915 update
アレクサンダー・カルダー(Alexander Calder:1898~1976)の作品を、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp:1887~1968)がモビール(mobile)と命名したこの仕様は、特にデンマークなどで室内装飾に使われ、現在では乳児保育器の上に吊り下げられてもいる。構成主義などから派生したキネティック・アート(kinetic art)のひとつとして位置づけられているこの有り様を使って、彫刻家が試みたのは、実に彼女の王道の真逆の性格だった。というのも、粘土塑造を固定化させる石膏型取りを経て石膏に形態を移し替えた上で着彩を施し、時にブロンズ鋳造へ移行する彫刻家の仕事は、観念で捉えても十分ハードワークである。困難はそのボリュームだけでない。彫刻を始めた当初は二次元の絵画達観を得るために三次元の創作に関わるのは意味があるだろうと、元々絵画的創作者としてのスタンスが敷かれていたという。だからこそ彫刻に淡く与えられた色彩はどこか絵画的な透明感が漂う。テラコッタ(素焼き)の頭像の作品もあり、木彫や石彫のように鋼で刻み込んでいく仕事ではなく、柔らかい粘土を指先で盛りつつ拭う仕草が、彫刻家の資質の基底を示している。モビールは軽く折りたたむことができ持ち運びや送付運搬に労苦が伴わない。同時に空間を十全に占有しつつ彫刻状況に似た立体的官能を与えるこの仕事は、彼女にとってはソフトワーク的に位置づけられているのかもしれない。よく見れば、日々の印象が綴られるかの様々な形象が吊り下がり、そこにはスケッチクロッキーなどで選ばれたプロポーションがあり、生活の脇に転がり眠る愛猫もある。時には目障りなものは時には心に澄み渡る。
紙による半立体的な作品群は、とある雑誌表紙装丁シリーズとして長年に渡って行ってきたもので、今年の晩春に原画展という形で発表されるまで、公開展示されなかった。今回のモビール群との並置により、作家のデリケートな空間の把握を繊細にたどることができる。飛び出す絵本の類ではなく、ひとつの完結した平面性において上下左右からの環境光の陰影がもたらす構造の変化を持つこの性質は、風によって形態を変異させるモビールとその環境依存構造が似ている。装丁に使われる時、背後から照明をあてることもあったという、この儚い(ような)構造体は、作家のソフトワークというより、気質を反映する「もうひとつ」の構想構造として、更なる展開と進捗を期待したい。
少々無理をしても是非、彫刻家の彫刻作品展をと願って数年過ぎてしまった。この希望は萎えたわけではないので、いずれトータルな創作全景というかたちで、企劃してみたいと考えている。彫刻家の手を夢想したことがあり、彼ら(彼女ら)の、触覚で切り開く動物的な力にどこか憧れていたかもしれない。ところが、この二ノ宮という女性の彫刻家は、そういったスタンスを差異を飛び越えたどこかで、儚さと豪胆さと重さと軽さを自由に扱っているから、魂消るのだ。
文責 町田哲也